●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、男のセリフに感心してます。
酒処にて
中年のカップルが店に入ってきてカウンター席に座った。
男は仕事帰りらしくカバンをもっている。女は地味だけど垢抜けた着物姿。ちょっと
人目をひく雰囲気だ。
席に座ったあとも二人はしきりに話の続きをしていてあたりをうかがう気もない。
どうやら夫婦ではないらしい。なにか訳あり?
そこへアルバイトらしき若い美人従業員がメニューをもってオーダーを聞きにきた。
二人は額をつきあわせて真剣に選んでいる。ときどき従業員に料理について聞いたり
している。その様子がとても睦まじそう。
お酒とつまみのオーダーが決まると美人従業員はマニュアルどおりの口調で
「ポイントカードはありますか?」
「いや、ない」と男が答える。
「おつくりになりますか? ポイントがたまるといろいろ特典がございますが」
「いや、あなたの顔をまたいつ見にこられるかわからないのでつくらないよ」
見事な男の応対であった。
まず、場慣れしている。断り方がスマートである。いや、スマート過ぎる。もしかし
て今話題のチョイ悪おやじ?
女性に対して臨機応変、当意即妙に応対できるのはモテる男の条件である。
前と横に美人を置いといて、こんな軽口を叩けるのが酒の席の醍醐味なのだろう。連
れの女性とは長いつきあいだからこその余裕だと想像するが、果たしてその女はどん
な風に感じたのか気になることだ。