●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新聞記事から表情を追加のシリーズ、主婦のこのごろの気持ち。
新聞ネタ独白シリーズ
お金に換算すると…(その1)
晩ごはんを食べていると夫が
「この夕食代は全部でいくらぐらいかかってるの?」
と突然聞いてきた。
嫌な質問だ。原価が高ければおいしいのは当然、安ければこんな安いものしか食わせ
ないのか、と思われてしまう。つまり食費をふんだんに使いすぎても、少なすぎても
台所を預かるものとしてはどっちみち立つ瀬がない。
「なぜ? まずいの?」
と刀の柄に手をかけた状態で逆に聞いてみる。
今夜は安く仕入れた材料を我が腕のみせどころとばかりにおいしくグレードアップさ
せたはず。返答如何ではお手打ちだ。
「いや、まずいわけじゃない。新聞にこの不況で外食が減っていると書いてあったか
ら、外と内とではどのくらいの差があるのかと思ってね」
私の剣幕に夫はあわてて言い訳する。
「じゃあ、私の手間賃はどう計算にいれるの?」
というと、
「とりあえず、ヌキにして、原価だけで」
ときた。ほらね、やっぱり。
内食、ひいては家庭仕事の手間賃、技術料は無視されるのだ。虫の居所の悪い私は、
「食べることは快楽でしょ。人の快楽はお金には換算できません」
と問題をはぐらかしたのだった。