●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの新シリーズ3回め。社長がえらいっ


シリーズ リポーター奮闘記

サービス業


“銭形平次は腰痛だった!?”

という見出しで、

「親分!てえへんだ!てえへんだ!」

「なんだ、八っ,大きな声をだすんじゃねえ。俺の腰痛に響くじゃねえか」

「そんなら、○○町の××院で腰をもんでもらったらどうですかい。腰痛なんざあ、たち

どころに治っちまいまさあ。おっとそれどころじゃねえんですよ、親分。事件!事件!」

こんな書き出しで物語り記事を書いた。整体マッサージ治療院の広告記事なのにである。

××院はいつも記事広告をだしてくれる常連のクライアント。誰が書いても“痛みが消え

ていく…”の見出しでどんな治療をしていかに効果があるかを謳ったワンパターンの内容

だった。

そこで、私は当時夜のゴールデンタイムに放映されていた人気番組「銭形平次」を利用す

ることを思いついた。これはちょっと奇抜で、広告主の地味で実直な人柄を思うとかなり

冒険であったが、迷った挙句、私は無難よりも遊び心の方を選んだ。そしておずおずと冒

頭の原稿を整体師にみせると予想通り不機嫌な顔になったまま首を縦に振らない。仕方な

くすごすごと持ち帰り社長に原稿を見せて事情を話すと、

「ああ、こりゃあいいや。大体いつも同じパターンなのは読者に対して失礼だよ。このく

らい目新しい方がよろしい。よし、この原稿は私が直接××院に掛け合ってOKとってや

る」と言ってくれた。こうして広告らしからぬ原稿はなんとか日の目をみることができた。

変わったことが大好きな社長のお陰であった。

このときの“読者に失礼”という社長の言葉は私にとって衝撃的だった。広告主のご機嫌

をとってばかりではいけない、新聞と名がつくからには目線は常に読み手の方に向けられ

ねばならぬと悟らされた。コピーライターって広告主と読者の橋渡し役。つまりサービス

業ってわけなのだ。


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