●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シリーズ10回め。心に残った広告について
シリーズ リポーター奮闘記
大きなお世話
私の昔の取材ノートを広げると茶色くなった新聞の切抜きが挟んであった。それは次の
ような1990年代のフジテレビの広告文であった。
「死ぬの生きるのって思いつめたことのない人かわいそうだなぁ。
今日から生まれ変わるって誓ったことのない人かわいそうだなぁ。
東欧がどうなろうが中東がどうなろうが日本がどうなっちゃおうが全然関係ない人かわ
いそうだなぁ。
ウッチャンナンチャンのギャグの深い部分知らない人かわいそうだなぁ。
顔だけの人かわいそうだなぁ。財産だけの人かわいそうだなぁ。
仕事だけの人かわいそうだなぁ。愛してる人がいない人かわいそうだなぁ。
テキトウに楽しくてマーマー幸せでケッコウ平凡な人かわいそうだなぁ」
(まだ続く)
というまったく大きなお世話な文である。
なぜ私はこれを切り抜いて大事にとってあるのか。きっと“そうだよなあ”と共感して
しまったに違いない。
これを読むと、気のおけない友人とお酒でもしたたか飲んでオダをあげている図が浮か
んでくる。笑ったり、悲しんだり、失敗したりを経験した輩がお酒の力を借りて大層な
ことを言っている。ちょっと生意気な憎まれ口でちょっと負け惜しみに平均的日本人の
心をくすぶるものを吐き出している。
最後には平凡に生きているのをかわいそうだなぁ、と自嘲気味につぶやいて、クッーと
こぶしを作って涙を拭いて酔いつぶれるのだ。
そういえば最近はやたらと“やさしい”だの“癒し”という言葉が氾濫して、こうした
ツッパったお節介な広告文にお目にかからない。