●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シリーズ11回め。大きい肥満者の小さくて大きい悩み
シリーズ リポーター奮闘記
肥満が不満
クライアントである不動産屋へ取材に向かっていたときのことである。
隣を歩いていた営業のA君が「あっ」と小さく叫んで立ち止まった。「ん?」と私も止
まってA君を振り返ると、赤くなってもじもじしている。そして、
「ボクの後ろを歩いてくれませんか?」と言う。
「どうしたの?」
「ズボンの股が裂けちゃったんです」
「えっ」と驚いて私は思わず目を股に落とすと、
「そんなにじろじろ見ないでくださいよ。あの、きっと後ろから見るとわかってしまう
と思うんだけど…」
私はすぐ後ろに回ってチェック。
「あら、わからないわよ。あ、ちょっと歩いてみて」
果たして歩くとズボンの裂け目からちらりと下着らしきものが…
A君は入社したてだが、なかなかやり手のニューホープ。どっしりした巨漢に渡辺徹に
似た愛嬌のある顔がのっている。
「これで3度目なんです。太っていると股ズレやズボンが裂けるなど結構悩みが多く
て…」
A君は情けなさそうにぼそぼそと肥満の悩みを打ち明けた。ふむ、困った。そこで私は
A 君の背後霊のようにぴったりくっついて二人1列縦隊で行進した。
ようやく不動産屋に着くと、よりによってお尻が沈み込むようなソファを勧められた。
A君は仕方なくちょこんと両膝を揃えて巨体を小さくして座る。
「あ、どうぞ、お楽に」
先方が気を遣っていってくれる。A君とてそうしたいのだろうが事情が許さない。
私は笑いをかみ殺すのに苦労した。