●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの快調シリーズ19回めです。


シリーズ 世にも短い物語

子供の知恵

私は個人的に英語塾を開いている。最近の英語熱の高まりで幼稚園から中学生と生徒

の層は厚い。さまざまな子供とかかわって、いろいろ観察できるのは楽しくそして新

しい発見も多い。

小学校の1年生のクラスであった。A君は利発で、勉強の呑み込みも早く、言うこと

が理詰めでかなり大人っぽい。きっとIQも高いのだろう。A君の両親はともに先生

で、昼間はおばあちゃんに預けられている。いわゆるおばあちゃんっ子の典型で、ち

ょっと過保護らしく冒険を好まず慎重でいつも厚着をしていた。

冬のことであった。A君は教室に入るなり椅子をストーブの前に置き、ジャンパーを

椅子にかけた。

「あら、どうして?」

私は過熱して危なくないかしら、と危惧して声をかけた。

「こうすると、ジャンパーが温まって帰りにあったかいのを着られるじゃん」

A君は得意そうにいう。

私はその賢さに舌を巻いた。大人の私さえそんなこと思いもよらなかった。利口な子

なので将来きっと社会のリーダー的存在になるだろう。

だが私にはちょっとひっかかるものがあった。

いつも温かいジャンパーを着ていられる幸福感と、冷たいジャンパーを着るときのゾ

クッとする感触を味わい、それがじわじわと体になじんでホンワカと温まっていく幸

福感と、どっちが将来のためにはいいのだろうか?

「保身」という言葉がよぎる。つらい思いを過度に避けるといつも自分を快適な状態

に保とうとそちらの方に知恵を絞りはしまいか?

これはちょっと考えすぎだろか。


戻る