●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが先日行った旅行の旅行記連載3回めです。



シリーズ 大連みやげ話

授業はエスケープ


星海広場…ああ、なんてロマンチックな名前だろう。

海水浴もできる浜辺に面している広場というので、なんとなく青松白砂を連想したが、あ

にはからんや、まったくの人工的な芝生と花壇だけのだだっぴろい公園だった。

今回の旅行の目的は一応日中友好と中国語受講生の実践修学旅行なので観光の合間に東北

財政大学に1日体験入学が組み込まれている。部外者の私は授業をエスケープしてここに

来たのであった。

エスケープ組は5人。浜辺を散策したり馬車に乗ったり思い思いに過ごしていた。

私は海に面したベンチに一人座って、岩場で釣りをする人やわかめ取りの人々をボーと眺

めていた。陽光が波間にはじけて眩しく潮風が心地よい。ガイドの王さんも暇そうで私の

隣に腰掛けた。

王さんは中国人には珍しい眼鏡をかけたメタボ。日本のサラリーマンといってもそのまま

通る。

「日本に来たことはありますか?」と私。

「ええ、何回か行きましたよ。秋葉原で買い物をしましたね。 “萌え”といわれる人たち

の熱気も“メイドカフェ”も珍しくて面白かった」

「へえー、よく知っていますね」と驚くと、

「特に日本の流行ネタに精通することはお客さんを喜ばすポイントだからね」とベテラン

ガイドの貫禄十分に語った。

それから王さんは中国の最近の急速な物価高や、一人っ子の愛娘がヨーロッパに留学して

いて年に2万元(日本円で約300万)も送金しなければならないなどこぼし話などをし

た。どうやら中国では立身出世への期待は想像以上に強く、先進国の言語に堪能なことは

エリートへの近道のようなのだ。

昼食は大学のキャンパスに戻って学生に混じって学食をとる。カフェテリア方式で4品と

って6元。料理はもちろん中華でまあまあのお味。学生の雰囲気は地味でおとなしく顔つ

きが子供っぽいように思った。

午後は我々のために設定された特別課外授業の書道を習い、夜、レストランで友好の夕食

会に出席した。中国語のできない私はただひたすらごちそうを食べる。


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