●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シリーズ13回め。もどきさん世の厳しさ肌で感じました。


シリーズ リポーター奮闘記

エステ


広告文の中には客になったつもりで店を紹介する体験リポートの形式をとるものがある。

エステティックサロンなどはよくこの手を使った。リポーターの私が実際にエステを体

験し、どんな感じでどんな効果がでたかを報告するのである。もちろん店の宣伝なので

内容はベタホメ記事とあいなるのだが・・・

タルミ、クスミという名の双子姉妹を過保護に育てた私としては、タダであこがれのエ

ステをしてもらえるチャンス!とばかりに鼻息も荒くこの仕事を引き受けた。


しかし、世の中そんなに甘くはない。

役得できれいになろうなんて了見は通用しなかった。

というのは・・・

まずクリームで化粧を落とされ、蒸気をたっぷりあてられ毛穴を開く。次に特殊クリー

ムでリンパマッサージを施されるのだが説明が長いだけで少しやってあとは省略。ゲル

マニューム温浴も手をつっこんだのは数秒のみ。つまり、すべての行程をほんのさわり

しかやってもらえないのだ。挙句の果てに写真を撮られ、すっぴんで放り出され、ごく

ろうさん、で終わり。


そりゃそうである。あちらはお金を出す立場、宣伝効果抜群の文章を書いてもらえばそ

れでいいのだから。

私は仕事の緊張とお得意さまに粗相のないよう気を遣い、肌にはむしろストレスがかか

り、いいことはなにもなかった。つくづくエステとは自腹を切って客として女王さまの

ように扱われ、リップサービスがあってこそ気分もゆったり、お肌もしっとりなのだと

悟った次第。


思えばそんな最悪状態でも「ツルツルスベスベのお肌に!」とか「うーん、鮮やか、魔

法の指!」とか感嘆詞いっぱいの文章を書かねばならないのだから情ない。

コピーライターとはときには嘘も書かねばならない因果な商売である。


戻る