8/4のねこさん 文は田島薫
断食するねこ
猛暑で、ねこさんほとんど外で見かけないもんで、このコラムに書くネタがない。
しょーがないんで、事務所が都内江戸川橋にあった時、毎日のように来てたねこさ
んたちの話のストックの中から。
そのねこさんには強烈な印象を受けたんだけど、あまりに悲惨な話に感じて、ずっ
と、何だったんだろう、って思いながら封印してたもんなんだけど。ネタがない、
つーことで背に腹は変えられない、って何でも書いちゃういーかげんな私。
3階にあってペントハウスと言っても過言でない(過言だっ)立地の私の事務所に、
毎日、階段を上がって、顔なじみのねこさんが入れ代わりエサを食べに来てたんだ
けど(もっとも、下の階でいいエサ出た時にはだれも上まで来なかった日もある)、
たまに、見かけない顔の新人が来て、やがて馴染みになることもあれば、その1回
きりの一期一会ってこともあった。
その後者の例なんだけど、夏の日だったか、半開きにしてあった事務所のドアのわ
きで気配がするので行ってみると、もうほんとにガリガリに痩せた小さなねこさん
が立ってて、なんだかとても親し気にこっちを見ながらすぐにすり寄って来た。
その体の異常な痩せぐあいにビックリし、腹ぺこなはず、って思ったんだけど、そ
ばに置かれたキャットフードには目もくれないんで、そっちへ誘導してやったんだ
けど、そばへ行ってはちょっとにおいをかいだだけで、すぐに、そんなことよりあ
そぼ〜、って風にこっちへニコニコすり寄って来て、意外に元気いっぱいなのだ。
これは食べない時間が長過ぎて、固形物を体が受け付けなくなってるんだな、って
判断して、別の皿にミルクを入れてやって出してみたんだけど、やっぱり同じ反応
をする。病気なんだろう、と今度はねこさんの万能薬またたびを水でといて出して
やった。でも結果は同じ。ちょっと口の中へ少し無理矢理入れようとしても、全く
それを飲み込むこともその気もないようで、ただ、元気いっぱいにあそぼ〜、って
すり寄るばかりなのだ。
その時は、これは重度の摂食障害で、このまま死んでしまうんだろう、って絶望的
な印象を持ったんだけど、痩せててもとても元気だったわけだから、今は、あれは
たまたまなんかの理由で断食してたねこのガンジーだったんだ、ってことにした。