4/28のねこさん       文は田島薫

くろの想い出2

先週は近くのスーパーへビールを買いに行って帰って来て、家の前の陽の当る坂道

の上まで来た時、隣のバレエ教室の先生である奥さんも買い物らしく上がって来た

とこだったんであいさつしたんだけど、その後から梅ちゃんもついて来ていて、坂

の途中で自発的に立ち止まって飼い主を見送ってたんで、なでてやったのと、わが

家の回りをウスチャのとらが歩いてたのと、うまちゃんが奥の家のアプローチに沿

ったわが家側のフェンスにゆっくり乗ってから、アプローチを下って行ったのが、

ねこさんウォッチングのすべてだったんで、また、くろの想い出の続きを。


くろは毎日通って来ては事務所内の段ボール箱で寝る日々がどのくらい続いたんだ

ったか、たっぷり1年いや2年以上だったかも知れない、その間に、わこちゃんはデ

ザインスタッフの仕事と同時に休日や出勤途中に撮っていた雑誌用ねこ写真に加え、

手伝っていたある写真家の仕事も大忙しになり、10年以上もいたココアスタジオか

ら独立して行った。

わこちゃんがいなくなっても、確か、くろは事務所に通い続け、いつもの定位置の

段ボール箱の中にいて、それがあまりに日常化して、あたりまえのように日々を過

ごしてたある日、いつもなら一番に来たくろが食事済ませて、もう室内の箱に移動

してる時間に、どういうわけかくろが来ない、たまたま来ていた愛想のいい三毛だ

ったかの頭をなでていたところに、遅れたくろが階段を上がって出勤して来て、そ

の光景を見るや、何を勘違いしたのか、階段を引き返して行ってしまい、翌日もそ

の翌日も顔を見せなくなった。

くろはどうしたんだろう、ってそれから、ずっと、近所を歩くたびに探す日々が続

いたけど、とうとうそれっきりになってしまった。

それから、まる2年ぐらい経った、ゴールデンウィークの谷間の日、事務所のそば

のスーパーのわきに突然くろが寝そべってるのに会った、おー、くろ、って声かけ

たら、なつかしそうな顔はしなかった変わりに、ごく自然に、なでる手を受けた。

すぐに事務所に戻り、いつもしてやってたブラッシング用のブラシを持って来て、

ブラシをしてやると、さほど喜んでるようでもないけど、いやがってる風でもなく

リラックスしてる形は事務所にいたころと同じだった。

それでも、多分もう彼の生活リズムにはわれわれは必要ないのだろうな、って気が

して、無理に連れて行くこともせず、そのままにして別れ、それから今日までくろ

とは一度も会っていない。


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