ぼけのたわごと             文は上一朝(しゃんかずとも)


大変お待たせいたしました。
大好評だった酩酊放談のシャンせんせい、
装い新たに復活しました。


みわたせば                            

春がきました。都内で名残の花見をすませ、東京の北西に位置するK市に越してきて2年

になります。はじめの内はなにごともテンポが合わずいささかノイローゼとなりました。


住めば都とはよく言ったものです。すこしは周りの景色に目をむける余裕がでてきます。

肥やしを積んだ牛車をよけて、小道にはいると、足元には、すみれ、タンポポ、れんげ草。

春まっさかりです。

1時間に2本というバスのまきあげる土埃から目をそらすと、むこうには……、 

みわたせば やなぎさくらをこきまぜて みやこの春の にしきなりける と、龍村の織

物のような景色がひろがっています。今年は、桜の花が長持ちしたせいか、新緑とあいま

って、真に素性法師の歌そのままの景色が楽しめます。しばらく、道をたどると、清流と

はいえませんが、小さな流れにメダカやドジョウの姿も見られます。


 都心から1時間とすこし。こんなに恵まれた土地があったとは夢のようです。

 なにごとにも疑り深いわたしのことです。夢ではないかと、頬をつねってみました。

 目が覚めました。夢でした。

 ここにきてから飼いはじめたメダカにえさをやり、春風にさそわれて、うたた寝をして

 いました。枕代わりにしていた本の角に、頬があたって目が覚めたのです。


現実はどうでしょう。2車線ギリギリの、もちろん歩道のない道路が続きます。大型車が

すれ違うときの歩行者は、命がけです。たまに、申し訳のようにプラスチックの棒が立っ

ていますが、しょせんプラスチックです。ぶつかる車にはやさしいでしょうが、歩行者は、

ひとたまりもありません。


みわたせば 無策利権をこきまぜて 一般道路の 地獄なりける


つい、十数年前、夢のような土地を開発した行政は、なにを考えていたのでしょう。

〔道路特定財源〕というものは、春、幻の霞だったのでしょうか。


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