●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
大人気もどきさんのねこシリーズ、キジネコ話の2回め。


シリーズ/人生ときどき猫●キジ猫2

人間嫌いのキジ猫ウスグロは、猫仲間にも嫌われていた。いつもひとりぽっちで、しかも

よくエサの取り合い、縄張り争いでケンカをした。とにかくケンカっ早いのである。

我が家の庭にマーキングをしまくり、近づくとピクリと止まり戦闘体勢で見つめる。ぬく

ぬくと甘やかされて保護されている飼い猫とは大違い。日々ストレスにさらされて命を削

っているような痛々しさがあった。そうした野良猫の生き様は慢心して生きている人間に

「どうだまいったか」といっているようで、意気地のないこちらは「ハハー、恐れいりま

した」とひれ伏すしかない。

外出から帰ったとき、たまに家の門柱にウスグロが夕日を浴びておだやかに座っている姿

などを見ると「おお、なんと崇高な姿よ、きっと哲学しているに違いない」と惚れ惚れと

してしまう。

「バッカみたい、猫はただ暇にしているだけなのに…」とわかっていても邪魔しないよう

にそっと通り過ぎりたりした。

さて、人間嫌いのウスグロのお気に入りの場所はお隣さんのガレージで、寒いと車の屋根

上で日向ぼっこ、暑いと車体の下でごろ寝である。「危ないな」と思っていたが、動物に

注意をしても始まらない。

その悪い予感が的中して、ある日車の下で寝ているときに車の急発進でひかれて片方の足

先を失くした。幸い致命傷ではなかったのでウスグロは健気にも病院にも行かずなめて自

然治癒力で治してしまった。

しかし動物にとって身体障害は生きるか死ぬかに直結する問題だ。ケンカをして縄張り争

いに生存競争に負ければ死が待っている。それ以来ウスグロはなるべく目立たないように

こそこそと生きるようになった。

私はいつも死と隣り合わせのウスグロを哀れと思ったがそれは思い過ごし、いや、人間の

思い上がりなのかもしれない。ウスグロは自分の体力に合わせてしぶとく生き方を変えた

だけなのであった。


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