●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
大人気もどきさんのねこシリーズ、キジネコ話の1。
シリーズ/人生ときどき猫●キジ猫1
姉夫婦の敷地に建てさせてもらった小さな家は、手狭になり10年後に引越しをした。
引越し先はやはり横浜市内で駅に近いが土地が狭い。お隣さんとは目と鼻の先であった。
あるとき、ごみ出しの日なので庭ごみを集めていたら、「キャー」という素っ頓狂な悲
鳴が聞こえた。声のする方へ駆けつけるとお隣の奥さんが物置の前で固まっている。手
招きするので行ってみると、猫が物置の床に横たわっており、そのお腹の下にはまだ肌
色の子猫がうごめいていた。「産んじゃったのよ、ココで」興奮した声のお隣さん。
「アラ、マッ」としかいえない私。
しばらくしてようやく冷静になった二人の分析と対策は次のようであった。
産気づいた野良猫がお隣さんの戸が少し開いていた物置に入り、赤ん坊を産んだこと、
子猫は全部で5匹いること。追い出すわけにはいかないと二人の母性が一致した。しば
らく面倒を見ているうちに子猫はしろキジ、くろキジなど見事なキジ猫のオンパレード
で、さては、と父親の目星がついた。だからといって父猫の責任問題にはならないのが
動物の世界である。
顔の広い奥さんがなんとか2匹の嫁入り先を見つけた。「お宅に1匹どう?」私にまっ
すぐ視線を向けてきたので、「あっ、ウチは猫アレルギーの子がいるので…」と慌てて
手を横に振った。正直飼いたい気持ち半分、生き物を飼うつらさ半分の気持ちだった。
結局、3匹は2軒からエサをもらいながらノラ化した。年頃になって人懐っこい2匹は
不妊手術ができたが、1匹は捕まえることができなくそのままだった。
その1匹とはキジ柄がぼんやりとして灰色っぽく器量が悪く、そのうえひねくれ者でな
かなか馴染まなかった。我が家ではその猫をウスグロと呼んだ。薄汚い、薄バカに通じ
る大変侮辱的な意味合いがあったが、一方で手を焼く子ほど可愛いといった屈折した愛
情で特別に目をかけていた。
半ノラのウスグロと私の交流はお互いが必要となったとき時間を共有する不思議な関係
だった。呼びかけると体中を目にして瞬きもせず私を観察し、私の手にエサを持ってい
なければにらめっこはおしまい。エサがあればおずおずと寄ってくる。そのうちようや
く慣れて触らせてくれたが、絶対に抱かせてはくれなかった。その距離感は絶妙で、対
等なのだった。
しかし、この幸薄いキジ猫ウスグロの人間嫌いは、後の猫人生に影を落とすこととなっ
た。(つづく)