●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの新シリーズのはじまりです。


シリーズ 外国人交遊録●ハンサム先生はNG

私は一時お尻に火がついたように英会話を勉強したことがある。

それでいろんな英会話スクールを渡り歩いた。

初めて通った横浜アカデミー校では、生徒5〜6人の少人数制クラスで、先生はなんと映

画俳優アラン・ドロンを思わせる甘いマスクのハンサム青年だった。長身をきびきびと動

かし、カールしたまつ毛をまたたいて「グッド・モーニング」と歌うように挨拶されると、

ただただ圧倒された。

だいたい日本人の西洋人コンプレックスは根深いものがある。島国根性といえばそれまで

だが、こちらは英会話に慣れていないし純情だったので、吸い込まれるような水色の目で

見つめられて質問されるとあがってしまい、ドギマギした。

よく英会話上達法に“失敗を恐れるな”とか、“度胸で話せ”とか、いわれるけど、かな

り厚顔な人か、すでに国際派の人間にしか通用しないのでは…。まして相手がステキであ

ればあるほど自分のいいとこを見せようと背伸びするではないか。

すでにおばさんの私でさえも、その落とし穴にはまった。恥をかきたくない、間違いなく、

おたおたせずカッコよく、そんなこんなが渦をまいて頭は真っ白。出る英語もスムーズに

出てこない。

あるとき、ハンサム先生から「昨日の休日は何をして過ごしたか?」という質問があった。

順番はまわり私の番。「家族とアスレチックセンターへ行った」とスラスラ(?)答えた

のだが、通じない。衆目を集める中でしばらく「Where?」「Athletic center」のやりと

りが繰り返されたが、ついに先生は両手を広げ肩をすくめるあのジェスチャーで私との会

話を打ち切ったのである。

恥ずかしかった。ガックリ肩を落として帰った私は、[athletic]を辞書で引いてみて、あっ

と思った。発音が違う。私は日本語のように平板に発音したが、アスレチックのレにアク

セントをつけなければならない。強弱とリズムは英語の基本中の基本。急に英語の自信が

ガタガタと崩れた。

そこで私は悟った。無駄な抵抗はやめて自分の至らなさをさらけだそう、そして和製英語

とハンサム先生はNGなのだ、と。


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