●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの外国人シリーズの3回目です。
シリーズ 外国人交遊録●ハーイ、リンダ!
英語学校の授業料が高く家計に響いた。そこで安いのを探したところ、ある大学予備校の
小さな英会話教室を見つけた。それはまるで予備校カリキュラムの中でほんの刺身のツマ
ですよ、というようにつつましくこじんまりと存在していた。
しかも本業で稼ぐから英会話教室は安くていいよ、と太っ腹な経営だ。肝心の学生は受験
英語に目の色を変えているから、英会話にまで余裕がない。
従って教室はアメリカンネイビーの奥さん先生に生徒がたったの三人。二人は休みがちで
私一人というときもあった。しかもである、予備校のバリバリの英語教師がときどき顔を
出して通訳やら文法的なことを説明してくれたりと至れり尽くせりだ。
私は始め堅苦しく先生を「ミセス・ロー」と呼んでいたが、ある日、予備校へ行く途中の
坂道で先生にバッタリ出会い、思わず「ハーイ・リンダ!」と名の方で呼びかけた。先生
は嬉しそうにニッコリ。やっぱり、アメリカ人ってカジュアルさフレンドリーさが大好き
なのだ。そのときから先生と生徒の垣根を越えて友達になった。
あるとき、根岸の米軍キャンプのクラブでのパーティーに招かれた。薄暗いキャンドルだ
けのホール。ムードを盛り上げるジャズ演奏。いつもノーメーク、Gパンとシャツスタイ
ルの地味なリンダが美しくドレスアップしている。華やかに集まった男女をうまく組み合
わせ、退屈させないように洗練された社交術を発揮している。まるで上流社会のパーティ
デビューのよう。アメリカの日常の奥深さに触れた思いだった。
夫を連れてこなかった私は肩身が狭かった。(どうせ尻込みしてついてこないが)いいの
か悪いのかアメリカ人の社交はカップルで行動する。リンダもプライベートはほとんどダ
ンナと行動しているらしい。
そこのところをリンダに聞いてみると、「日本人ハ旦那ドウシ、奥サンドウシノツキアイ
ガフツウデスネ。不思議デス。両方ノ友達トツキアウ方ガズット楽シイノニ」という答え。
そのあと少しお酒が入ってから、もう一度リンダは私に囁いた。「サッキノ話ダケド、本
当ハイツモ一緒ッテイウノモ面倒クサイトキガアルヨ。デモ浮気シナイヨウ監視スル意味
モアルカラネ」