●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの外国人シリーズの2回目です。


シリーズ 外国人交遊録●インド人先生の失敗

次に英会話を習ったのはインド人からだった。肌が浅黒くいかつい顔をして一見とっつき

にくいがゆっくりとわかりやすく正確な英語を話す。そして「Go ahead!」が口癖で、順番

をまわすとき、答えを促すとき、場所を譲るとき、先を急がせるとき等などこの一言で間

に合わすのであった。無愛想このうえない。お陰で私もその後日本語の「どうぞ」にあた

るこのフレーズをバカのひとつ覚えのようによく使った。

なんでもインドのエリート教育では子供の頃から英語を母国語のように話し、しかも厳し

くスパルタ式で育てるらしい。そんな環境で大学まで出たインド人先生は、とにかく時間

に正確で授業は遅れず早からず教科書どおりの四角四面で、ジョークのひとつもない真面

目授業であった。

面白くなーい。やはり楽しく勉強したいではないか。インドという国のいろいろを知りた

いではないか。

というわけで、生徒たちが計って授業の後、先生をお茶に誘った。意外にもすんなりと先

生の「OK」が得られた。

以下喫茶店でのトンチンカン英会話。

先生「日本ノ女ノヒト“カワイイ”トイウ言葉スキデスネ。ナニヲ見テモ“カワイイ”ト

イウ」

生徒「最近日本人のボキャブラリーが貧しくなっているんです」

先生「ソレデ、ワタシハ赤チャンヲ見テ“コワイイ”ッテイッタラニラマレマシタ」

生徒「先生、その発音じゃだめですよ」

先生「アノ、朝ノ満員電車ニ乗ッタトキノコトネ。降リル駅へキタノデ降リヨウトシタケ

ド身動キデキマセン。ソレデワタシ“コロシテクダサーイ”ト叫ビマシタ。トテモ変ナ顔

サレマシタ」

生徒「それを言うなら“降ろしてください”ですよ」

先生「ワタシ、日本語書ケナイノデローマ字デ書キマス。Kヲイレテシマッタノデスネ。

大失敗デス」

生徒「殺してください、なんていったら大変なことになりますよ。先生」

先生「ソレカラ、人ガコソコソシテタカラ、“アナタ、ココデ何シテルノ?” トイウト

コロヲ”アナタコノヨデ何シテルノ?“ト聞イテシマイマシタ」

でるわ、でるわインド人先生の失敗談。みんなお腹をかかえて笑ってしまった。いっぺん

にインド人先生に親近感を覚えて大好きになった。

それにしても最後の“あなたこの世で何してるの?”は哲学的だなあ・・・


戻る