●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、今週から、取材データからの新シリーズスタートです。


シリーズ問わず語り●着物仕立て職人

着物ってね、反物を作るまでにたくさんの人手がかかっているけど、ひとたび商品にな

れば売る人、仕立てる人、着る人で成り立っているんです。今の時代、着物は高価だか

ら売る人、仕立てる人、それに着る人だって必死ですよ。もちろん私も若いときは着物

の美しさに惹かれ着る人だったのよ。でものめりこんでいるうちに着物のあまりの高さ

にこれはかなわないとせめて仕立て代だけでも浮かそうと和裁学校へ習いにいきました。

着物の魅力? そうねえ、一口でいえば日本人の心じゃないかしら。

着物は精神を着るといってもいいくらい着方でその人の心の在りようが出てしまうもの

なんです。よく若い人は着物を着るのではなく、着物に着られてしまっている人を見か

けるわね。だから年期がいるのよ、着物って。

事務員をやりながら和裁学校へ通い、まもなく見合い結婚しました。お見合いのとき古

風にも着物を着ていったら相手はおとなしい大和なでしこと思ったのでしょうね。即決

でした。(笑)でもやっぱりというか、子供一人もうけたのにうまくいかずあっけなく

離婚しちゃった。その後の生活に役に立ったのが和裁の技術でした。

あなた、和服を仕立てるのに国家試験があるのをご存知? 見てください、私の名刺。

肩書きに一級和裁技能士とあるでしょ。この資格を取るのって結構大変なんですよ。私

は苦労して苦労してようやく取れたの。今この資格のお陰で呉服屋さんから注文をとっ

て生計を立てています。つまりこの小さな針一本で子供と私を養っているわけ。すごい

でしょ。

縫うことが仕事となって着物への接し方がガラリと変わりましたよ。

「紺屋の白袴」って、あれ本当ですね。私は普段着物を着なくなりました。毎日毎日着

物と格闘して、どうしたらきれいに縫い上げるか、この着物ができあがったらどんな風

になるのか、そしてどんな人が着るのか、あれこれ想像しながら縫っていると、もう自

分は着物着なくてもいいや、っていう気分になるの。ちょうど食通が満腹になった状態

みたいなものよね。だからご覧のとおり、私はTシャツにジーンズです。いつもこう。

それに私の趣味は着物に似合う三味線ではなくウクレレなの。みんなに意外に思われま

すけど、そんなもんですよ。人間って。何かに一筋っていう生き方もあるけど、それは

まだ余裕のあるうち。生活がかかっていてどっぷり浸っているとなんか息苦しくなって

くるのね。だからまったく反対のものを求めたくなるのです。わかります? この気持

ち・・・

今は子供も高校生になったので、だいぶ気持ちにゆとりができました。こんどの休みに

はウクレレの仲間とハワイへ旅行します。こんな人生もいいかなって・・・ふふふ。


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