●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、取材データからの新シリーズ7回目です。


シリーズ問わず語り●畳職人

女房と畳は新しい方がいいと昔からいわれているけど、今そんなことを言ったら女房

に追い出されちまう。でも新しいイグサのあの爽やかな匂いは日本人に心地よいと感

じるようにもうすでに体に染み付いているのさ。だから祖先が残したひとつの文化だ

よ。最近は生活様式が変わって日本間のない家もあるようだけど、まったく畳がなく

なるようなことはないと思うよ。和食がもてはやされれば立派な和室で食べたくなる

し、温泉ブームで宿へ行けばくつろぐのはやっぱり畳の部屋だもんね。

この間ね、若い奥さんがウチへきていきなり「畳を6畳ください」

って言ったのにはびっくりしたなあ。笑っちゃったけど、そういう時代になったのか

と今度は悲しくなったよ。安い早いの既製品万能の世の中になっちまって物ができる

までの技術というものがまったく理解されていないんだよなあ。


まあ、今日は湿っぽい畳業界の話をするより職人気質の話をしよう。

職人といえば昔は徒弟制度があって親方のもとで寝起きを共にして技術を体で覚えた

もんだよ。上下関係が厳しいひたすら技術を磨く狭い世界なんだな。でもそこは他人

の飯を食いながら苦労もして豊かな人生経験を積む場でもあった。こつこつと覚えて

いく過程で物作りの楽しさも厳しさも味わって次第にプロとしての誇りをもつように

なっていくわけだ。

ところで奇人・変人・職人って言葉知っているかい? 三つの共通項はこだわりのあ

る一徹さ。奇人変人は別として妥協しないこの一徹さが本物の職人に育てるのさ。

職人を上手に働かせるコツはだな、お客の方にもある程度の知識と仕事を厳しく見る

目を持つこと。やり遂げた仕事をきちんと評価することだな。いまどき本物の職人は

少なくなって職業訓練校なんてえのができて学問になっちまったよ。それに最近やた

らと頭脳職がもてはやされているけど、技能職もあって初めて社会は成り立つんだと

思わないかい? 手に職を持つって、とてもやりがいのあることだと思うんだがなあ

・・・。


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