●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、うつ気分から、さっさとひとりで脱出。


これってプチウツ?

部屋の空気がどよ〜んと沈んでいる。夫が眉間にしわを寄せて新聞を読んでいる。この

ところの夫の不機嫌さはハンパじゃない。

まずレベル1の段階で話かけてこなくなった。次のレベル2でこちらの問いかけに対し

て生返事をする。ついにレベル3となって聞こえよがしに深いタメ息をする。

トーゼン我が家の雰囲気はクラーイ。

誤解のないように言っておくが我々夫婦、決して喧嘩をしているわけではない。すべて

夫の飲みだした薬の副作用のせいなのである。夫がある薬を服用したら血圧がドーンと

下がって、ふらふらするといいだしたことから端を発した。低血圧状態は気分を落ち込

ませ、非活動的になり、好きなお酒もおいしくないといいだして次第に無口になった。

こういうのをプチウツ状態というのだろうか。

夫婦とはお互いに鏡にようなもので相手がふくれっ面をしていると片方もふくれっ面に

なる。

「旅は道連れ世は情け」。

連れ合いとはよくいったもので、私も風邪をひいて体調を崩し、プチウツ状態に付き合

うハメになってしまった。

二人で終日仏頂面をしている。

これはイカン、と思い、新聞の切抜いてある好きな川柳を眺める。

「そんなにも怒るな笑え損はない」

そのとおり。一緒にうち沈んでいてもつれあいのウツが治るわけでなし、もろもろの悩

みが消えるわけじゃなし……

「予報士がオジサンで今日はテレビ見ず」

そういえば美人予報士たちはいつもとっかえひっかえあんなに洋服を変えるのだろう?

「金拾うときには腰痛苦にならず」

そうそう、まったくその通りで腰痛もちの私の姿そのもの。思わず笑いがこみあげる。

さらに調子にのって

「さりげない髪つくるのに1時間」

わかるなあ。自然を装うのが一番むずかしい。とかく普通とか人並みとかという価値観

が一番無難に暮らせるということか。

ようやくいつもの調子に戻ってきた。外出した夫を送り出した後、ゆっくり昨日の残り

物でごはんをすませ、ズズズーとコーヒーを飲んで、川柳を見て少し笑って、

どっこい生きているワタシ。


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