●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、なぞの男に、つかまってしまいました。


展覧会にて

日展も始まり、天高くまさに芸術の秋である。私のところにもポツリポツリと知人の展

覧会の通知が舞い込んでくる。

先週、我が絵の師の参加するグループ展に行ってきた。

ところは画廊のメッカ、銀座である。

これは余談だが、以前友人が銀座で個展を開き、画廊の賃貸料を聞いてその高さに驚い

たことがある。でも友人の言うには、銀座は趣味人が画廊巡りと称して回遊していたり、

目の肥えた有閑マダムが買い物帰りに立ち寄ったりで多くの不特定多数の人が見てくれ

るそうだ。また地域的イメージもアクセスも抜群にいいし、プロが新人発掘目的で訪れ

たりするようなサプライズもあるってことだから、そのメリットは自分の作品の実力以

上になるようだ。(あ、このコメントは下衆の勘ぐり)

さて、お目当ての展覧会場には参加人数が多いので4つの小部屋に別れ、作品は大作、

小品を含めかなりの数の絵が飾られてあった。手を後ろに組んでひとつひとつ丁寧に見

ていく。作品のレベルはおおむねちょっと素人離れをしたセミプロか地域の先生クラス

というところか。

私はひとつの3号くらいの小品の前で立ち止まった。色づいた葉っぱが1枚写実的に描

いてあるのみ。題して「もうひとつの季節」。

「うん? これはどういう意味?」

としばらくたたずんでいると、すっと小柄な紳士が近づいてきて、私の肩越しに囁いた。

「これは、柿の葉に似ているでしょ。でも桜の葉なんですよ」

どうもこの作品の作者らしい。

「あーそうですか」

「形が似ているので間違えられるのですが、ほら、葉の周りを見てください。ぎざぎざが

あるでしょ。桜の葉にはあって柿の葉にはないんですよ」

「はあー。あのー、そしてこの題は?」

私は気になっていることを聞いた。するとその紳士はよく聞いてくれましたとばかりに

嬉しそうに

「そうなんですよ。ここが私のこだわりでして、桜は花を咲かせる春が旬の季節ですが、

秋にもこんなに美しく紅葉するもうひとつの季節があることを描きたかったわけですよ。

やー、うれしいなあ。この題に気がついてくれる人はなかなかいなくてねえ」

と、手をとらんばかりにニッコニッコで説明してくれる。

うーむ、なるほど。そういわれても私はうなるばかり。作品の良し悪しには関係ない情

報である。私は一礼してそのうんちくおじさんの傍をそそくさと離れた。


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