酩酊放談             文は上一朝(しゃんかずとも)


発言欄のどうにも書かないN先生のピンチヒッターがレギュラーに、
事情通シャンさんが独立コラムに栄転!
今回も続続・転居通勤シリーズ、先生、車中の楽しみ方を見つけたようです。



しゃそうから3

世の中には秀才面というのがある。額は広く鼻筋がとおっていて目から鼻へぬけると言わ

れるくらい目もパッチリと色白。容姿はやせぎすで青瓢箪とたとえられる。もうひとつは

凡庸な顔立ちのなかに鋭利なものがうかがわれるヤツ。

目の前の席に座っている26〜7歳と見受けられる二人の若者の顔色は病的に白く、夜の

商売の人間によくある見てくれだが、顔立ちは後者のタイプである。青瓢箪といいたいと

ころだが、今日日のこと栄養がいきとどいているので体格はがっしりしている。

さて何者、と観察してみると、足もとの口をあけた大きなカバンにはノートパソコンとテ

キストらしい刷り物。手もとには塾の大店Kゼミナールの2006中学入試データブック。

塾の講師であった。夜の商売に違いはなかったが、二人の話の内容は彼らの生徒をいかに

効率よく有名中学へ放り込むかということであった。

塾の生徒を人間としてでなく物として考える彼らの話を聞いていてふと思った。

現在の学校教育とは、塾と進学率のみに重きをおく学校、さらに文部科学省を加えた3者

で構成する教育マフィアによるゲームなのではないかと。

塾が余計なことを教えるから試験のレベルを上げると学校がいえば、そんな高度な教育は

手前どもではできません塾にお願いします、と文科省。なんのことはない、「露は尾花と

寝たといい、尾花は露と寝ぬという」を、税金を使ってやっている。

教科別に分類されたデータを分析しながら彼らの立てる授業方針には血のひとかけらも感

じられない。テキパキと数値で判断していく彼らの話を聞いていて、学校教育とは工業製

品になってしまったのか、と錯覚をしてしまった。

そこへいくと今回発覚した教科書誤植、誤記問題は人間味に満ちている。

65冊208件ということは1冊に3ヶ所の誤りがあるということだ。単純な誤植、ルビ

の間違い、方程式の記号の欠落等などらしい。文科省はこれらの誤りを業者に正させるそ

うだが、そんなもったいないことをしないで、これらの教科書の誤りを見つける授業をし

たらどんなにいいことか。教科の内容をよく理解していなければ誤りは見つけられない。

与えられる勉強から自分で求める勉強になるし、ゲーム性もタップリだ。このほうがよほ

ど人間的で温かみのある教育になると思う。

いまにして思えば“くにさだ教科書”で育ったおじさんは、どだい教科書なんて信じてい

なかったっけ……。

車中30分は、当世はやりの生涯学習の場でもあるようだ。(06.5.15)


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