3/20ののらねこ 文は田島薫
午後のまどろみきょうは時おり寒い風が吹くものの、よく晴れた天気、でもココア食堂へは、
朝、バットマンが水飲みに来ただけ。お〜いお客さ〜ん、オヒヤだけ飲んで帰
られちゃ〜うちの商売上がったりだよー、って、あそーか、もともと金とって
ないんだったっけ。
で、しょーがないんで、午後、じゃなくて、さらっと言わない文章水増しの心がけ…、よく晴れた気持のいい午後、おなじみ、近所の路地見回りに出かけた。
北側の路地じゃ、ねこさん、お彼岸の準備で出かけたか、全然見つけられず、南側の路地に回ると、いたいた。
弁当屋の前の積み重なったボール箱を風よけにして、きたなくろ似たくろが
寝そべっていて、のぞき込むと、なんだよー、って目をしたので、や、って、
短かめのあいさつをして離れる。
ななめ向かいの木が茂った家の石の門柱の上には、こぎれいなとらが座っていて、ポール・ディビスかアンリ・ルソーの描いたねこの絵のようだ。
ちょっと離れたところから、よー、ってちょっと長めのあいさつしながら、な
がめてると、向こうもこっちをながめている。
そばへ寄るとせっかくのぼった門柱から下りちゃう可能性あるので、それはし
ないから安心してよ、って旨の合図を目で送ると、りょうかい、って目をした。
その2〜3メートルとなりの車のわきからグレーの子ねこが出て来て、こっちを見ながら車のバンパーの下に入りこっちを向いた。
こっちを見て、何かくれるのかい、って大きな目が言ってるので、あげないよ、
って目で言い、そば寄ると、急に出て来ちゃう可能性があるので、寄らないよ、
って言おうとしたら、やっぱり、道を車がやって来て通り過ぎた。
で、その旨を目で言うと、りょうかい、って大きな目が言った。
もう一度全員のいる位置を見直したら、視線の背景に、濃い緑の中に赤い花がたくさん咲いた木があった。
景色全体がポール・ディビスかアンリ・ルソーの描いた絵のように見えた。