●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回はトルコ冒険ツアーの3、日本人の貧乏さと当人の貧乏も一緒に確認。



トルコ10日間旅行記3

 ―私は日本人で1番貧乏―


ツアーのボスであるH氏は自他公認の“鉄道キチ”。だからもちろんアンカラからイ

スタンブールへは寝台特急で行った。今までバスの移動だったので、これが意外と新

鮮で快適だった。列車にはロマンがありドラマがあるではないか。もっともお疲れ様

の私にはロマンもドラマもなく泥のように眠ってしまった。個室にはトイレ以外はす

べて揃い、揺れも音も小さく私にしては珍しく眠れたのであった。目が覚めたら憧れ

のイスタンブール。まだ夢を見ているようだ。


駅を出ると、ゴマかけドーナツパンやくるみまぶし渦巻きパンなどのパン屋台車があ

ちこち見られ、道行く人が朝食用に買っていく。小麦の国トルコはパンがとてもおい

しいのだ。


さていよいよ市内へ繰り出す。ビザンチン帝国とオスマントルコの長い歴史を経て旧

跡が至る所にあり、町の様子もヨーロッパ風の洗練された町並みもあればアジア風の

喧騒に充ちた商店街があり、それらが渾然とブレンドされ独特の雰囲気がある。


町を行きかう人々の歩き方が心なしか速い。考えるにその理由の一つはまず若者が多

いこと。(人口構成では20代が最も多いとか)2つ目は信号も横断歩道も少なく、

道路でモタモタしていられず車の間を素早く器用に渡らなければならないこと。3つ

目は足が長いこと、ではないか。日本人が手を上げて道を渡ろうとしたらタクシーが

止まってしまい、違う違うと手を振ったら運転手に怒られたという笑えない話もある

そうだ。


旧市街は世界遺産の歴史地区となっており観光スポットである。ビザンチン建築の最

高傑作といわれるアヤソフィアはその大きさと古さ(537年完成)といい、なにし

ろ1000年以上も経っている建物が目の前にあるとは驚くではないか。そしてお目

当てのモザイク画はかなり精巧で目をこらさないとモザイクとは気がつかない。キリ

ストもマリアも素朴ではあるが威厳に満ちていた。


王宮には数多くの宝物が残っており、一般公開されている。その豪華さを見てしまう

とそこらの宝石店のショウケースの中身なんかチャンチャラオおかしい。よその国の

金持ちは日本のとは桁が違うと思った。


旅をして名所旧跡巡りもいいがなんといっても土地の人との交流が心に残るものだ。

バザールへ行ったときのこと。そこは常設の観光客相手の土産物屋街のような所で、

従って店主もすれっからしなら商品も怪しい。でもやりとりは地方でコツを呑みこん

だので私は慌てない。高いと思えば値切り、それでも高いと思えばいらないと立ち去

る。すると相手はあわてて追いかけてもっと下げてくれはずである。


お目当てのトルコティを買おうとしてある店に入った。店員が10個で100リラで

1個おまけと言う。私の財布にはすでに80リラしかなかった。私は財布の中身を全

部ぶちまけて、お金これしかない、と示すと、彼曰く「ワタシもビンボーだけど、ア

ナタニホンジンでイチバンビンボーね」。かくして一番の貧乏のお墨付きをもらって

トルコティ10個をゲット。さすがにおまけは貰えなかった。


トルコの印象はやはりブルーに象徴される。空も海もブルーなら宝石も絨毯もモスク

の屋根もブルー。今回の旅の思い出はトルコブルーに染まっていつまでも私の心から

消えることはない。

その日早めに着いたホテルの部屋でW杯サッカー日本対クロアチア戦を見る。


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