酩酊放談             文は上一朝(しゃんかずとも)


発言欄のどうにも書かないN先生のピンチヒッターがレギュラーに、
事情通シャンさんが独立コラムに栄転!
今回もしゃそうシリーズ、先生ご自身の年頃を武器に、優先席での微妙な人間観察。



しゃそうから7

バスというやつは簡単な乗り物だが、乗り方が大仰で好かない。やれ、前払に後払い、整

理券に両替などと、やたらに手間がかかる。以前「バスなんて威張っていやがるけど屋根

を取ってみろ、みっともなくて見ちゃいられねぇ」といった人がいる。なるほど屋根の無

い観光バスをみているとあまり自慢できる姿ではない。

今日は雨である。混んだ車内に老婦人が乗ってきた。つかまるところもなくしばし途方に

くれていたが突然最後部のベンチシートに向かって「お嬢さんつめて、雨だからお互いさ

まだからね」とおおきな声でいってどうやら狭いところに割り込んだようだ。その状景は

真後ろなので詳細はわからなかったが下りるとき振り向いてみると今様女子高生がゆった

りと座っているのを咎めたようだ。その子は不満そうな顔でもなくすまして座っていた。

電車に乗るとうまい具合に3人がけの優先席に座れた。メトロではCourtesy 

Seat.JRではPriority Seat.と表記されている、あれである。

40代の男性、二十歳半ばの勤め人風の女性、そして小生の順。車内はかなり混んでいる。

この雨のなか、次の駅で和服姿のいかにもなにかのお師匠さんタイプの婦人がカートに荷

物をくくりつけて乗ってきた。その婦人は我々3人の前にたつと「どなたかお願いします」

とおじぎをした。すると真っ先に若い女性が嫌な顔ひとつせづに席をゆずった。

となりに座った婦人の手のシミのぐあいから察すると、見かけは若く見えるが70歳はと

うに越えているようだ。女性の年は手にでる。これだけは誤魔化せませんぞ。

さて、ふつうこのような場合席をゆずった者はどこか他のところへ移ることが多いが混ん

でいるためか老婦人のまえに立ち続けた。さぞかしぶっちょうづらをしているかと思うと

すました顔をしている。先の女子高生もそうだが今の人はなにも感じないのだろうか。そ

れとも照れかくしか。

昔、中学の遠足のとき、幼児を抱いた女性を脇に立たせ座席で騒いでいた。突然「君達立

ちなさい。大人になればわかるから」と後ろの席から大声で注意されたことがある。この

ときは全員赤面して席を立ったものだが…。「なんでぇあのオヤジが立てばいいじゃない

か」とブツブツいいながらも恥ずべき行為は理解できていた。こういう形の注意が良いの

かどうかはわからないが、大人になったら立っている辛さがよーくわかった。

今日の一件も女子高生はCourtesyを示したのだし、電車の女性はPrioriー

tyを尊重したのだから、何事も起こらないよりはいい。

四っめの駅で老婦人は降りた。さぞ、ホームをよたよたと歩いているだろうと思いきや、

カートを引っ張って颯爽と人ごみに消えていった。人の身体の強弱は外見ではわからない

が、なんとなく「アッパレ、ヤラレタ」と感じたのは酩酊子だけだったろうか。


戻る