1/10ののらねこ 文は田島薫
冬のねこは動かない朝出勤途中の路地ではとっくに姿が見えなくなった白ペルシャの居場所だった
ところに、まだ「ねこにエサやらないでください」の張り紙だけ残ってた。
そのななめ向かい曲り角の家の前に置かれたカバーをかぶった手押しカートだ
かスクーターだかのシートの部分に太ったくろとらが座っていた。
こっちとジロ、って無関心そうな目を合わせるだけで、動かない。
いつもなんだか、親しそうに自分を見る怪しい人物だ、って怪訝に思ってるん
だろう。
このあたりのねこはのら、って言っても、たいていどっかの家がスポンサーになってて、いつもそこでエサをもらってるらしく、その家の前の暖ったかそう
な場所に座ってることが多い。
このくろとらもそうらしいんだけど、見かけなくなった白ペルシャは、個人の
家をスポンサーに選ばなくて、一見良さそうに見える食品会社の玄関横に居つ
いたのが失敗だった。
私や他の近所の人がエサやってたんだけど、ま、食品あつかってるんでしょう
がないんだろうけど、そこの会社に疎んじられ、やな思いをさせられたんだろ
う、とうとう引っ越ししてしまったらしい。
午後酒を買いに別の路地を行くと、弁当屋の前に置かれた段ボールの上に、ダークグレーの子ねこが座っていた。
こっちと目が合っても、無関心そうに動かない。
ちょっとやそっとじゃ、温い場所から動きたくないんだろう。
この段ボールも弁当屋さんが彼のために用意したものに違いない。
彼もスポンサー選びに成功したひとりだ。
多分実家は由緒ある出だったはずの白ペルシャは企画営業がうまくなかったのかも知れないけど、今はどっかでうまくやってるといいな。