8/28の日記 文は田島薫
夏とともに去ったおばさん
ここんとこ、ずっと暑かったり、こまごまとした雑用や、友人の手伝いやらが続
いたりして、ちょっと疲れ気味のせいか、音楽好き、それもハードロックがんが
ん好きの私も、なんだかそういうもんより静かなビル・エバンスのピアノやら、
バッハの無伴奏チェロやらを聴いてしまったりして、エレキギターにも手出して
なかったんだけど、きのうはけっこう涼しくて、さて、久々にエレキでも弾くか、
ってアンプにセットして、じゃんがじゃんがやってたら、家の前に車が止まった
んで、2階の居間の窓からのぞくと、となりの坂の途中の小さな家で独り住まい
してたおばさんの息子が顔出して、両手の人さし指を交差させてから、母親がさ
っき亡くなった、って言った。
おばさんは私の母親がこっちに住んでいた時にもずっと仲良くしてくれた人で、
3年ほど前に病気で倒れて入院していたのだ。
エレキでロック、って気分じゃなくなったんで、うちに住み込んで来た悩み出版
社が持って来た雑誌「SWITCH」のニ−ル・ヤングとエリック・クラプトン特集
とミスチル桜井と井上陽水のインタビュー記事を読んだ。
坂の途中の家が気になって時々窓からのぞくと、息子の家族が家の片付けをして
る様子でだったんだけど、夕方おばさんの体が運ばれて来た。
彼らの帰りぎわ、出て行って聞いてみると、何の前触れもなく、容態が急変した
そうだ。ちょうど90才だったって。通夜は斎場が込んでて5日後にやる、ってこ
とで、きょう1日だけ、本人が希望してるだろうからおばさんの体を家に帰らせ
るんだそうで、しばらくすると、また息子家族も戻って来ていた。
その場運動して風呂に入り、裸のままピアノで湯上がりのレクイエムを弾いてか
ら、短パンにティーシャツ、首にタオルまいてサンダルはいて坂の途中の家へ行
くと、息子や親戚の子供たちが楽しそうに笑いながら遊んでいて、そのうちのひ
とりが、こんにちわ、って言ったので、こんにちわ、って返した。
せまい家の中に堅い表情の親戚の人々が何人もいたんだけど、線香を1本上げさ
せてください、って言うと笑顔の息子が導いてくれたので、布をかぶったおばさ
んの前で、線香を立て、手を合わせた。
すぐにそこを出ると、外ではまだ子供たちが遊んでいる。
気持のいい風が吹いてて、なんだかおばさん、幸せな気持でいるんじゃないかな、
って気がした。