7/25ののらねこ       文は田島薫



つーとん他人になる

朝出勤する駅から途中の路地にシロペルシャは見当たらなくなったけど、夕方

になればたいていは戻って来るはずだ、この頃のパターンでは。

シロのいた場所の食品会社の社員らしい人が玄関前をほうきで掃いていた。

そこから右に曲るとすぐ家の前に植木を並べてる家があり、いつも1斗缶に水と

ひしゃくを入れてある。

ねこがそこで水を飲んでた、ってシャンさんが言ってたから、シロにも別な水

の供給はいらなそうなことがわかったのだ。

そして、その家の隣は玄関の上の2階が迫り出して柱で支えられていて、その

下が駐車スペースらしいんだけど(車が止まっているのを見た記憶がない)、

そこのまん中につーとんがうつぶせて涼んでいた。


つーとんはこっちの路地とは方向違いのうちの事務所から南側の七曲がりの路

地の方で寝起きしてたはずなのに、なんでこんなとこでくつろいでんだ、おい。

いちばん最近事務所付近まで出向いたのを見たのは確か冬だったはずで、そん

時もさんざんそばで昼寝したりエサもらったりした私のことを忘れちゃってい

たんだけど、今度もやっぱり思い出してはいなかった。


おい、つーとん、って言いながら、近づこうとしたら、びっくりして、眉間を

寄せた表情で、前足を少し突っ張って、立ち上がって逃げるような気配をさせ

たので、そのまま後づ去りしたら、彼はそのままの表情と姿勢で固まっていた。


この間はまだ、あれ、だれだっけかな、って考えるそぶり見せたんだけど、

今度は完全に、なんだこの全然知らない人は、こっちへ来ようとしてるけど怪

しい人だな、三味線屋さんかも知れないな、って顔になっていた。


彼にはもう昔の思い出は消えて、新しい人生(?)を楽しんでいるようだ。

そっちがその気なら、また1から付き合い始めようじゃないか。


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