連載●文はクボユーシロー

小旅行日記16


(千葉みなとその2)

『千葉の黒砂』は今もあった。先週この欄で書いた、昔の先輩の住所『黒砂』は今も

千葉市稲毛区にちゃんとあった。地図で見るとやはり『黒砂』の南側つまり東京湾側

の低い地帯は大きな住宅地になっており、その地名も『海岸通り』など海っぽい名前

が多く付いていた。『子供の頃、窓の下は美しい遠浅の海だった。家から素っ裸で遊

びに行った。』とその先輩はよく言っていた。

京葉線『千葉みなと駅』の南西側つまり海よりの一帯はいまだ未整備な感じである。


民家や商店などは全くなく、千葉県不動産協会や税理士協会など2、3階建ての小さな

建物がまばらに建っている。たくさんある空き地は有刺鉄線で囲われ、赤土に雑草が

生い茂り、大量の空き缶や錆びた自転車やバイクが投げ込まれていた。駅から、そん

な殺伐とした中を6,7分歩くと海がある。コンクリートで固められた海岸線、人の立ち

入りを拒むように有刺鉄線が高くと張りめぐらされている。近くに大きな船が見え、

海岸ぶちに立つ工場だか倉庫だかのクレーンが忙しそうに何かを下ろしていた。

京葉線『千葉みなと駅』の北東側つまり陸地側は海側と全然違って整備され、ホテル

やマンションを始めたくさんの建物が建っている。しかし、今ひとつ人間の匂いのし

ない寒々とした映画のセットのような感じで、あまり長居をしたくないような不快感

すら持つのである。都市計画にのっとり幅広くとられた道路はきちんと碁盤の目、緑

たっぷりの公園、クリニックやコンビニもあるちゃんとした町なのに。この京葉線

『千葉みなと駅』は『都市モノレール』とも接続している。海沿いのこの駅から千葉

市内の繁華街まで空中を走るその姿は子供の頃見た『未来都市』の絵本そのままでも

ある。

しかし僕がこの駅に降り、街を見た時に感じた嫌悪感と疲労感は一体なんなのだろう。

つづく


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