10/27の日記 文は田島薫
土曜日の夜は友人の尾形さんに誘われていた舞踏家大野一雄さんの97才の誕生会に彼と彼の友人の美人オペラ歌手と伺った。
私は尾形さんがプロデュースした“魂の風景”は見ていたものの舞踏をそれほど
知っているわけでもなく、部外者がいきなり訪問するのは失礼だろうと思い躊躇して
いたのだけど、友人である彼が最も敬愛する人物に会ってみたい気もして直前になっ
て伺うことにしたのだ。
横浜にある大野さんの自宅はちょっと長崎のオランダ坂を思わせるような風情のある石段を上ったところにあり、もう夜の8時4〜50分になっていたのだけど、玄関の隣の
別棟の広い稽古場の外には練習生らしい若者たちが立っていて訪問客を誘導した。
稽古場の中には練習生にまじって、雑誌のカメラマンやら、複数の外国からのカップルやらテレビカメラ※まで来ていて、彼の舞踏界での評価の高さを感じた。
ワインなどをいただきながら大野さんの登場を待っていると、やがて97才の大野さんが体を支えられながらゆっくり登場、会場全体に緊張が走り、全員の凝視と、ライトと
マイクとテレビカメラが向けられた。
あまり自由には動かせなくなっているらしい体の手がわずかづつ持ち上げられ動いた
だけで、この瞬間のすべてを感じるのだという彼を敬愛する人々の五感と彼の舞踏の
気といったものが会場を充満し、私もその一部になった気がした。
側に常に人が支え、知らずに体に力が入って行き椅子からずり落ちそうになるのを気づかう気持ちもみんなが共有し、彼に集中する意識は余計に高まり不思議な感動も
憶えた。
それはバースデイケーキのろうそくを吹き消すだけの儀式の時も持続するので、
参加者の彼への崇拝度の大きさに感心しつつ、あまりの緊張感のそんな時、となり
のオペラ歌手に意味のない冗談を小声で言って、たんびに叱られた。
われらのオペラ歌手はすばらしい月の砂漠を披露し、ギリシャの女性が熱心に
アンコールを求めに来た。
大野さんが退場した後にもう一曲歌い、合わせて息子の慶人さんが踊った。
※11月3日にNHKで放送予定だそうです。私もちらっと出演かも?