6/2ののらねこ
      文は田島薫



出勤して階段を上がって行くと、2階の踊り場に中途半端な姿勢でたたずむ

くろとらがいた。

くろとらは目が合うといつもさーっと逃げていたのだけど、しょっちゅう声を

かけてるせいか、すぐには逃げないこともたまにあって、きょうもわりあい

ゆっくり階段の後ろによけただけだった。

なんだか彼の困ったような、何か言いたいような気分がこっちに伝わって来て

何だろうなと思いながら、階段を上がってみると、ドアの前の水道メーターに

置かれたボール箱の中にちびのまだらがいた。

体のでかいくろとらはちびのまだらのせいで、エサまで来られないようだった。


彼はけんかに弱そうではなく、ねこと会った時に逃げ出すのを見たことはない

けど、争い事はきらいで、慎重派なんだろう。

証拠に、少したって階段後ろの物置き屋根を上から見てみると、くろとらのそば

を見なれないダークグレーのねこが通りかかったらしく、どっちも固まっていた

のだけど、少し離れてたといえ、グレーの方は背中を見せていたのに、くろとら

の方はその背中を見ていた。


またしばらくして、続いていたその光景を見たクボセンセイは、上からまたたび

の粉をまいていたけど、状況は変わらなかったようだ。


またしばらくして、行って見てみると、グレーは帰っていて、くろとらは

物置きの屋根をなめていた。

彼は慎重かつ堅実に物事を対処するタイプなのだ。


戻る