連載●文はクボユーシロー
貞熊遺伝研究所5
(初詣)
今年も初詣に行った。原則として僕は神仏から鰯の頭まで一切信じてな
い。しかし毎年の三箇日どこかに手を合わせに行く(ちゃっかり色々な事
を頼む百円で)。神仏、大小、遠近を選ばないがとにかく行っておくと心
が落ち着く。これは何なのだといつも考える。『神仏に対する畏怖の念
なのか』『麻薬に似た習慣性か』等の候補の中に『遺伝』がある。
母親は初詣など絶対に行かない人だが、問題は84歳で逝った親父の方で
ある。僕が物心ついた頃から彼は大晦日の夜、いつも家にいなかった。
川崎の方にある大きな寺に行くのである。除夜の鐘がなる頃ちょうど寺
に着くように出掛けるのである。僕が小学校高学年になるとこれに付き
合わされた(高校生になって付き合わなくなったが)。いつもすごく寒
かった事とラッシュアワーのような人ごみだけが思い出としてある。
おやじはゼンソクの持病があり、暖冬の年以外は毎年冬になると咳き込
んでいた。それも毎年、初詣の後に拗らせてひどくなっていた様な気が
する。しかし、熱心な毎年のお参りが効いたのか84歳で往生するまで寝
込む事は無かった、あっという間に逝った。
親父を初詣に駆り立てた何かが、僕の中に遺伝子として存在してるの
か。 つづく