2/10の日記 文は田島薫
先週末は、前日に売れない映画プロデューサーの友人と深酒したので早めに帰宅の途についた。電車の出口のところに立って新聞を読み、
読み終わると「網棚にのせ」、文庫本を読んだ。
乗り換え駅で下りようとした時、そばに立っていた20代ぐらいの小柄な美しい女性に突然殴られた。(びっくりしたのでかなり痛みを感じたのだけど、
ダメージ与えるほどのパンチではなかった。)見ると彼女はまゆを
つり上げて怒りの表情をしている。
チカンに間違われる行為はしてないし、わけがわからなかったので、
「何?」と2度ほど聞くと、下りて来たのでまた「何ですか?」と聞く。
彼女は「ごみを捨てるな」といった主旨のことを言った。手には私が
網棚にのせた新聞らしいのを握りしめている。
私は道路などにごみを投げ捨てる人には軽蔑を感じてきたし、人のごみを拾うことだってあるのだけど、電車内で読んだ新聞は網棚にのせておけば
他の人も読めると思ってたし、自分だってそうやって読むこともあったので、
彼女に「また誰かが読むでしょ」と言った。そのとたん2発目のパンチが
飛んで来て、「ごみは読まない」と言われた。
意見の交換は済んだようだし、二日酔いもあり、深くつきあいたいタイプの女性に思えなかったので、退散しようとしたら、背中で
「このこじきやろーっ」という叫び声が聞こえた。
見ると、彼女はまだ走りださなかった電車に乗り込み、こっちをにらんでいた。
あまりふに落ちなかった私は首を傾けたポーズをつくりながら、
走り去る彼女を見送った。
後で考えてみると、その新聞は朝刊の読み残しの頁を引き抜いてきたもんでよれよれだったし、私の風体も「わりあいこぎれいな浮浪者」といったとこだ、
注意の仕方は乱暴すぎるけど、客観的には彼女の主張の方に理がありそうだ。
私はこれまで新聞を網棚にのせるたびに、自分は気の利く人間だな、と満足に感じていたのだけど、どうやら「こじきやろー」だったようだ。
「きちがいじじー」と呼ぶ友人もいるから、私は「こじきやろー」の「きちがいじじー」なのだ。どうぞよろしく。