9/30の日記          文は田島薫



先週末、仕事を終えていつもの立ち飲み屋へ行くと、定年退職した後、

市民劇団に参加している松田(仮名)さんが来ていた。

彼はいつも人の生き方について考えているといった男で、深い人生観

を感じさせる表情と、話しぶりと、聞き耳を持っている。


私と目が合うと元気ですか、と珍しいことを言うので、あれ、と思っていたら

彼はほんの2.3日前に自宅で倒れ救急車で運ばれたそうだ。

まあ、結果はたいしたことではなくて、日頃からの不整脈のちょっときつい

やつだったようだ。


彼のいつもの口癖だが、こういう店でみんなと酒を飲めるのはほんとに

幸せですね、といつにもまして、しみじみ酒を飲みながら言った。


そこで私は、誰でもあした死んでしまうかも知れないですもんね、

そう思うと、このひとときは貴重ですね。と私はだめ押し(または蛇足)

を言ったのだが、彼以外の顔見知りの同席(ただ立ってるだけだが)者

には単に気分を落ち込ませただけのようだった。


しばらくすると、いつも来る自閉症にみえる男が足を引きずりながら、

店に入って来て、ビールをたのんだ。

彼とは全然話しをしたことがないのだが(店の客とも話してるとこを見た

ことは一度もない)、足どうしたんですか、と聞いてみた。

すると、痛風になっちゃって、とごく自然に答えた。

で、私は痛風にはビールはいけません、しょうちゅうにしたほうが

いいですよ。と余計なアドバイスをしてから、帰った。


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