連載●文はクボユーシロー

貞熊現代アート研究所7


(鶏龍山窯)

十五世紀朝鮮、鶏龍山周辺の窯で焼かれた陶器が面白い。日本では鶏龍

山鉄絵とか鶏龍山窯李朝絵刷毛目など色々な呼び名がある。(今、朝鮮

半島では『李朝、李氏朝鮮』を使わないらしい。)

僕が好きなのはやきものの形でなく、瓶や徳利などに描かれたこげ茶色

の鉄絵である。これはまさに現代前衛アート、六百年前によくこんな絵

を描いたとビックリする。同時に職人たちにこういう絵を描かせた工房

主の存在に驚く。一瞬子供のではと思う様な絵であるが、とにかく潔く

勢いがある。以前、デパートのギャラリーで鶏龍山鉄絵の写し(日本人作

家)の即売会(結構売れてた)を見たがだめ。本物にある快い伸びやかな感

じやおもいきりが無い。ある本に『中国のやきものの絵付けは熟練の画

工が書いたように見えるが、意外と子供の手による物が多い。李朝のや

きものの子供が描いたような絵は逆に修業を積んだ大人による物だとい

う』とあった。

李朝の白磁器は当時の上流階級用のやきもの、鶏龍山などの陶器は庶民

が日常生活で普段使いした雑器だったらしい。戦前に民芸運動を啓蒙(と

平凡社の本に書いてあった)していた柳某(名前うるおぼえ)や淺川某らに

よって李氏朝鮮時代のやきものや、朝鮮半島の生活用具が美しい民俗工

芸として日本に紹介された。それ以来、日本には熱狂的『李朝工芸の

ファン』がたくさんできた。(柳某はあの白洲正子に嫌われていた、詳し

くは後日)

柳某らが日本に紹介するまで李朝の白磁や陶器は朝鮮の一般家庭の中に

ゴロゴロしていたと言う。当時それらは生活に使われ、特に陶器は美術

的評価や骨董的価値は無かったらしい。(そのころお祖父さんが現地の人

から李朝白磁や鶏龍山を二束三文で大量に集め、縁の下に埋めといてく

れたら今頃、孫たちは大金持ち)

現代の韓国では李朝の白磁や陶器及び高麗青磁の写しが大量に作られて

いる。土産物屋やセトモノ屋でその大半を日本人客が買う。また贋作に

引っかかるのも日本人だけだという。五、六百年前の朝鮮のやきものが

日本人を惹きつける魅力、なんだろ。 つづく


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